千葉の逆襲
  • 谷村昌平
  • 言視舎
  • 980円
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書評


参加させてもらっている書評サイト『本が好き!』の献本が久々に当選した(このところ余り応募していなかったというのもあるが落選も続いていたので)。その久々というのがバーチ本というのも、なんともはや。
さて、バーチをどういった視点でエグるのか、非常に興味深く読み進めたのだが…

本著はシリーズ化しているようで、他に埼玉の逆襲や群馬の逆襲もある。サブタイトルにもあるように、都道府県別に様々の視点から充実度を比べようという企画らしい。
まず首都圏には東京という王様がいて、それに付随するように埼玉・神奈川・千葉がライバル関係にあるという図式から、面白おかしくライバル県を比較する。こうした試みはマツコ・デラックスあたりが深夜のテレビ番組でネタにするような話であり、当該県在住者同士でよく話のタネになるような一種の御国自慢で・・・神奈川は横浜を有し、観光的印象的歴史的観点からもオシャレで他県から群を抜いて優位性があるとか、埼玉は海がないとか千葉はガラが悪いとか・・・まぁそういうしょうもない話に終始するようなことではある。
だが、折角本にまとめるのだから、どういった観点で切っていくのかが最大の見せ場のはずだ。まず千葉の歴史的背景、その立地条件からくる千葉の歴史的特性が述べられていくのだが、これが単純に眠い。歴史を検証するのが本著の目的ではないのでザックリとなぞる程度で、正直ウィキペディアを見ているような感じ。概要だけの歴史俯瞰は退屈で、写真や図といった資料も乏しく、各論に迫ると本著はそれを目的としないといって、筆者の雑感、よもやま話として印象論に終わる。

気づくとこんな調子で半分以上のページが過ぎていく。途中から「もしやこのまま終わるのでは?マジか!?」という疑念が頭をもたげる。
2/3くらいでやっと現代の千葉の話になってくるが、千葉都民とか松戸や船橋は意外と治安悪くないとか習志野がプロ野球発祥の地とか、もう知ってるっつー話のオンパレード。特段、自分が千葉に興味あるからという部分差し置いても、ちょっと皮相上滑り感は否めない。成田空港建設を巡る三里塚闘争にしても、尾瀬あきらのマンガ『ぼくの村の話』を引くまでもなく知られている程度のことしか書いてない。
個人的に興味を持ったのがディズニーランドの話で、谷津遊園を運営していた京成から遊園地事業を引き継いたオリエンタルランドがディズニーランドを誘致し運営しているのは知られるところだが、ディズニーランドの誘致には浦安以外にも立候補した土地は他に沢山、関東以外の多方面に存在し、現USJも候補地だったとか、近くの手賀沼も手を上げていたというのにはビックリした。しかも手賀沼の場合、遊園地的なアトラクション以外にも競技場や健康ランドも併設した複合アミューズメント施設を画策していたようで、現在道の駅「しょうなん」がある隣にスーパ銭湯の満天の湯【公式サイト】があるが、対岸にはメルヘン館のような山階鳥類研究所があるなど、この一体がディズニーランド候補地として開発を進めていたのではないかと思わせるものがあった(手賀沼ディズニーランドに関しては【ウィキペディア】参照。なお予定地だった場所の東端は県立我孫子高等学校となったとあるが、ケーブルカーが通る予定だった場所が恐らく手賀大橋で、この対岸が満天の湯【感想レポUPしました!】となっている!)。

個々に千葉についての知識量に差があるだろうから、本著を読んで知ってること/知らないことは違ってこよう。読んでの発見があることは勿論あるだろうが、上のディズニーランドの例をみるまでもなく、ネットで調べられることであり、ウィキペディアにあるようなこと以上のことはあまり見受けられなかった。
皆が皆、本著に書かれていることをウィキペディアで調べてるわけではないが、著者がすることは、そうした各々の事象の何をピックアップし、どう整理するかで論旨は見えてきて、著者なりの見解が生まれてくるのだと思うのだが、残念ながら私には知識の羅列以上のものは感じられなかった。
個人的関心から言わせてもらえば、千葉の千葉たらしめているオモシロ処とは何か、それは首都圏の他県に見受けられない独自の文化、特に食文化で、自分が得意なラーメンに関して言えば、少しだけ本著でも触れられていた、昨今取り上げられる機会の増えた勝浦タンタンメンはいうに及ばず、まだまだ全国的には知名度の低い竹岡式ラーメン【参照:千葉拉麺ブログ】は本当に木更津〜富津あたりの内房に本当に沢山お店があるし、東池袋大勝軒から派生したこうじグループ【過去記事】のラーメン店の多さたるや異様なほどで【こうじ店舗一覧】、ここまで地元に多店舗展開する系列・暖簾分けでは、それこそ京都の王将や天下一品といったFCチェーン以外では、珍しいのではないだろうか。房総の内陸部で、日本一最寄り駅から遠いとも言われるアリランラーメンなど、地元カラーの色濃い文化は埼玉や神奈川では見られない類のものだと思う。ラーメン以外でも、野田の醤油にはかなり触れていたが、自分にとって野田といえばホワイト餃子【過去記事】の本店。食べ物以外でも、実際に千葉県民が行くのはアウトレットモールよりも郊外ロードサイド文化の象徴、ジョイ本ことジョイフル本田に違いない(本拠地は茨城ながら千葉の方が店舗数が多い。千葉ニュータウン店ではなんと地ビールをつくっている!)。きっと自分が知らないこうした文化は調べればもっとあるのだろう。

自分が実際千葉を訪れて非常に興味深く思われた文化について本著では殆ど触れられていなかった。著者と観点が違うと言われればそれまでだが、巻末の参考文献をみても郷土史的な資料が殆どで、机上の資料を繋ぎあわせたような印象だけがどうも残ってしまう。ライブ感がないというか、この人は本当に千葉の各所を歩いて、食べて、人や店に触れたのだろうかと思わざるを得ない。添付されてる写真も他所から提供してもらったものが目立つのも気になるところだ。
ただ仮に文献重視の内容だとしても、そういうものが欲しい向きもあるかもしれない。自分が千葉の魅力と思うところや、関心の矛先が本著とズレただけなのかもしれない。
その意味で、本著がどういう位置づけなのか、表紙のデザインを取ってみても、面白おかしく書いたものというより、実用書的な印象を受ける。実際は著者の言うとおりよもやま話的な内容なので、もっと硬派で掘り下げた内容を期待するとそれはそれでズレる。
それはそれとしても、もうちょっと買う気を起こさせる千葉の魅力が感じられるデザインに出来なかったのかと残念に思ってしまう。他の都道府県の本もあるし、シリーズの一巻として対象の県が飛び出るCGという仕様なのだろうが、そうだとしてももうちょっとやりようがないのかと。
結局のところ、こうしたデザインからも感じられるように、誰に向けて、何を浮き彫りにしたい本なのか、分かるのは千葉ということだけで、そこから先が今ひとつ見えてこない。
なんか物言いばかりつけてしまった感じになったが、まぁ自分が千葉への思い入れが強いということで許していただきたい。だったらオマエが書け!と言われそうだが、頼まれれば書きますよ!そりゃもう(^_^;) まぁこれはこれのニーズがきっとあるということで、それを信じて終えるとしよう。

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