●講談社のゲイダイWEB版「マネー現代」に、企業が手掛ける家系ラーメンについて書きました
全国で大増殖、「町田商店」が家系ラーメンで“独り勝ち”の理由
池袋商店
この記事は【ヤフーニュース】など幾つかのネットニュースにも同時公開されたのだけど、特にヤフーニュースのコメントには、まぁ想定内というか、家系原理主義がワンサカ湧いてきた。
イチイチ反論する気はないし、言いたくなる気持ちもわからなくもないが、ここで自分なりの家系に対する考えというか想いを述べておきたい。

記事に書いた通り、最初は横浜近郊でローカルに広まったご当地ラーメンともいえるもので、当時は環七の豚骨とか背脂の全盛期だったので、横浜の方には独自の豚骨醤油ラーメンあるらしいよ、という感じで噂を耳にしていた。
石神本が出て、ネットでとらさん(東京のラーメン屋さん)が盛り上がり始めた90年代後半、家系の情報が入ってくるようになると、本牧家・近藤家・六角家・桃家など横浜方面にも食べに行ったし、東京にできたとなると結構なニュースになって駆けつけたものだ。
当時、東京で頻繁に行ける範囲では高田馬場の千代作【高田馬場新聞】くらいしかなくて、行くといつも武富士のポケットティッシュが大量に用意されていたのを妙に覚えている。
他は東陽町の大黒家【食べログ】くらいかな。
城南エリアに行けば横浜に近いので、キャベツラーメンのこうや@矢口渡【食べログ】とか、本格的なのが食べられたけど、とにかく近場にないから、家系に飢えていた。

埼玉には春日部のげんこつや、北上尾に井門家というのがあって、特に井門家は独自性が強くてあんまり王道の家系という感じではないので、王道が食べたい身には神奈川に行くしかないのかと思っていたところ、岩槻の石川家とかが支店を出したりして、2000年に入る頃には東京やその近郊にそれっぽい家系が増えていった。
このブログに頻繁に登場するせい家や武蔵家が出てきたのが90年代最後のほうで、2000年に入って徐々に増えていったのだが、今のようなセントラルキッチンのFC丸出しの判で押したような店は殆ど見受けられなかった。よこはま家とかいうのがちょっとソレっぽかったかな。町田家ってのが新宿にできた時に食べたけど、そんな変な味って感じはなかった。
2010年頃からだろうか、駅名+家を冠した、いわゆる壱系(壱角家【公式サイト】を展開する株式会社ガーデンなどによる工場スープのFCの総称)が増えていった辺りで、街に家系がやたら増えたなという印象を与えた。
このブログでも過去に触れているが、和民が系列店舗を増やした頃って駅前がデカイ筆文字の屋号を掲げるエセ和風のFCで飲食店が席巻された時期があって、それと呼応するように、爆発的に広まった東京チカラめしがアレよという間に衰退し、その店舗の多くが壱系になる事態が起きた。

壱系の筆文字看板やラーメンのイラストなど、当時の外食FCのトレンドだったし、そういう家系が出来てもなんら可笑しくはなかったが、気づくとどの駅前に行ってもある事に気づいて、これはなにかあるなと思った。
店頭のイラストや写真のラーメンを見ると、やたらスープが白くてうずらの玉子が乗ってる点が共通していた。白っぽいスープからしてセントラルキッチンじゃないかとは勘づいたが、試しに食べてみると、表面の油(家系だと鶏油(チーユ)だが、黄色くないのでラードのところもあったんじゃないかな)でコクを持たせているものの、肝心のスープはクリーミーでまろやかではあるが、どこかスカスカで軽い感じがあって、それっぽいけど物足りなさを覚えた。
そして、こうした店は店頭で豚骨ラーメンと謳っていることに違和感が物凄くあった。
ふた昔前は豚骨スープというと、本格的な店以外は通常のスープに豚骨スープの素を溶かしたり、業務用の豚骨スープを使ったりしていて、全然100%豚骨スープとは味が異なる、異様なほど白いなんちゃって豚骨が殆どだった。
それに比べれば、だいぶコクがあるが、それでも豚骨と謳うには強引な印象は拭えなかった。調べてみると、壱系のスープは鶏ガラを使っておらず、豚骨100%という。でもそれって家系なの?という新たな疑問が生まれる。だったら、山岡家【favy】は家系と言っても可笑しくない(山岡家は鶏ガラを使っていないことを家系ではない根拠としているから)。

壱系のルーツを辿ると、壱六家【公式サイト】になるようだが、確かに豚骨100%をはじめから謳う家系で、うずらの玉子が乗ることで、家系の中でも異色でありながら、確固たる人気を誇っていたのは記憶している。詳しい経緯は知らないが、ここから「壱」が付く屋号の店が派生し、その中からセントラルキッチンを設けFC展開する企業が出てきたということらしい。
その果てに誕生し、昨今急成長しているのが町田商店で、駅名+商店という屋号で特に都市部で展開していることから商店系と呼ばれるそうだが、ここは鶏ガラも加えていて、食べた感想としては、目隠しして食べたら工場スープと分からないくらいのコクを感じたのは事実。

工場スープもだいぶ進化しているなというのが正直な感想で、家系の個人店とは味わいがそもそも別(壱系や商店系はあくまでベースにクリーミーさがある)なので、これは好みで行きたい方に行けばいいじゃん、としか言えない。
旨さのベクトルが異なるのだから、そりゃ王道の家系とは味が違って当然。だからってコッチが正統だとマウント取り合っても何らの生産性もない。だって、全国的に展開しているのは壱系や商店系なのであって、多くの人にとって口にする家系は圧倒的に工場スープの方だ。それを食べて美味しいと思うことに罪はなし、そう思った人が全員横浜に来れるわけがない。なにかの機会に横浜に来ても、崎陽軒のシウマイや横浜中華街で中華は食べても吉村家にはほぼ行かないでしょ。
それをやりだすのがラヲタ、もしくはその予備軍で、ラーメン業界を支える食べ手のシェアのどれだけいるのよ?
企業として展開していこうという時に、繁華街やロードサイドで家系のこともよく知らない人が、コクがあって美味しいラーメンだったねと思う、そういうライトユーザーをターゲットにするのは当然のこと。ヤフーのコメントで一生懸命に王道の家系を養護しても、単なる嫌がらせになってしまう。
本来の家系に近いラーメン店にしても、ラヲタだけで成り立ってるわけじゃないし、ふらっと訪れる家族連れとかって、近所やいつも通るルートにあったりするから行ってるわけで、それが横浜じゃなかったら、壱系のラーメン屋がそういうロケーションにあるから、そこに言って美味しいねって言うよ。
吠えてる輩が、横浜から遠い人に、横浜まで来る交通費や家系の店で食うラーメン代払うんだったら、いくらでも言ってくれて構わないと思うけど、そういう事出来ないのに、自分が慣れ親しんできたものを養護しているつもりが、実は文化を滅ぼすことに加担しているかもしれない。
これはB-1グランプリとかにも言えるんだけど、レシピ化してのれん会作って地元の味を守ってるつもりでも、規定から外れて組合に入らないのが意外と元祖の店だったりするという本末転倒はよくある。

本家の吉村氏がインタビューで応えていたのを見かけたことあるが【はまれぽ】、亜流は傍系は黙認状態で、家系は定義しない、みたいな感じじゃなかったかな。
本人がそう言ってんだから、どこが本物じゃないとかってことじゃなくて、もうここまで広がった以上、ある程度家系っぽい感じのラーメンで、店側が家系っていうなら家系でいいじゃん。
その上で、色々食べ比べたい人は食べてみて、オレは王道の家系が好きとか、壱系の店しか行ったことないけど、ああいうの家系っていうなら美味しいと思う、でいいんじゃないかと。
吠える人って、オレは本物を知っているとマウンティングすることでしかアイデンティティを保てない心が貧しい人なんだなとしか思えない。

個人的には都心部で日曜とか、家系っぽいの食べたくて選択肢がない状況でもない限り、工場スープの店ではまず食べないと思うが、結果的に個人規模で店でスープ取ってるところの味が好きだから、FCでもそういう店に気づけば足が向いている。

強いて好きな家系を上げれば・・・
・近藤家@北山田
・寿々喜家@上星川
・らすた@日吉
・山藤家@落合南長崎【過去記事】
・武蔵家@白山【過去記事】
・せい家@上板橋【過去記事】
かなと。下の2つは家系というよりドロドロ豚骨ラーメンだけど。

で、最近食べた中で、やっぱ店で炊いたスープって美味しいなって思えたのが、東武東上線の東武練馬に出来た丸武家。あぁ、やっと食レポに入れた〜

東武練馬駅は断崖絶壁に建っていて、台地と台地の狭間で、両サイド崖に挟まれた不動通りって道があるのだけど、丸武家は崖上の駅から不動通りに下る階段の入口にある店。

外観
家系ラーメン 丸武家【食べログ】 ★★★★★ 4.8 
所在地:東京都板橋区徳丸2-3-14
公式サイト:marutakeitabasi.owst.jp

以前は激アツめん蔵というラーメン屋が長らく頑張っていたんだけど(詳細は【シャバゾウblog】を)、結局入ることなしに閉店してしまった。
跡地がどうなるだろうと見ていたら、ある日家系ラーメンが出来ていてビックリした。昨今駅周辺はFCとか、どっか企業がバックについてそうな店ばっかりになっていたので、工場スープの店かなと期待せずにいた。
しかし不動通りから階段を上がるとすぐさま、豚骨の芳しい香りがプ〜ンとしてくるではないか。匂いに釣られて階段を登りきると、震源地はやはり丸武家だった。

これは期待できるぞと、ある夜突撃することに。
入り口
間口はかなり狭いが、店内はそれより少しは広いかな、という感じ。
変速L字カウンターで、9席くらい。厨房は2人体制っぽい。
券売機で食券を買って、空いてる席につく。卓上には家系ラーメンの解説が書いてある。
掲示
トッピングを聞かれるが、初めてなので全部普通でお願いする。
ライスは1杯目無料だが、この日は飲みの後だったので自重。

しばらくしてラーメン¥690がやってきた。
ラーメン
写真よりも実物は王道の家系っぽい(成増の武蔵家から出た店らしい)。
ダシが良く出ている。鶏ガラも入っているだろうが、豚骨がなめらかでありながら、ザラッとした食感もあり、ややしょっぱめの醤油ダレの味わいを無骨なパンチのあるスープと合わさって、口中にグワッと押し寄せてくる。唇もカピカピになってくる、そうそう、この感じ。
麺はプルンとして、あまり特徴はないが、スープには合っている。スープを吸って馴染むという方向性じゃなくて、やや弾く感じながら、スープがノリすぎず、いい塩梅。
具のチャーシューは赤身がプリプリで噛むとしっかり旨味があって、分厚くはないが肉食ってる感が強く、適度な脂身もいい。ホウレン草は多めで、水っぽくなく有り難い(以前冷凍モノ使ってるところが解凍しきてなくてカチカチだったという痛い目にあってるからな)。
そして最後の方にショウガとニンニクを投入。やっぱカラダが温まるし、最強に合う。

店で炊いてるスープって何がいいかというと、この芳醇な匂い。本格長浜豚骨みたいに炊きまくっているほど臭くはなく、適度に芳しい感じで、満足度のあるスープってのが嬉しい。ちゃんと動物の命を頂戴しているって有り難みも感じられるし、丁寧に、そして残さず食べようという気持ちになる。
当然全汁完食。身も心も満たされて、家路につくのだった。

やっぱ店で炊いてるスープが好みだけど、色んな人が色んなシーンでそれぞれの事情で外食してるわけだから、それぞれにあったところで、やれる範囲で楽しく食事をしたい。
というわけで、これはこれの家系ラーメンとして、美味しゅうございました。ごちそうさまです。

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