カテゴリ:喫茶店 > コーヒー

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昨年末に発行したコーヒーのミニコミ誌、お陰様で委託先から追加発注もいただけるような状況で、手持ち在庫が底をつきそうだ。
というわけで、早々に電子書籍化してみた。
ブレンドしか頼まないヤツは一生飲みたいコーヒーに出会えない!? 1・現実と概要篇【Kindle版】
アマゾンページ

内容は、誤変換や文章のおかしいところを直した以外は変えていないので、読みやすく、全体にデザインされた本ならではの味わいを感じたい方は、まだ委託先書店では取り扱っているところも多いので、そちらも是非ご利用いただきたい。
どこも小さな書店なので、このご時世、通販していただけると嬉しいッス。文字ばかりの本なので、自宅で自粛中のお供にしていただければ幸いです。
というわけで、本の中でもチョット触れている、自分の中では昭和の酸っぱい珈琲を出す喫茶店の代表的存在をUPしておきたい。

学生街といえば喫茶店。この界隈はやはり昭和からの純喫茶の類が多く、特に神保町は嘗ての学生がコーヒー一杯で長時間粘り、議論を戦わせていた様な店が未だ健在だ。そんな空気感を残す御茶ノ水の喫茶店として真っ先に思い出すのがミロ。
表通り
さて、入口は何処でしょ? 雑居ビルの看板なんぞ探しても意味はない。
細い路地
サラ金や金券ショップの入る怪しげな雑居ビルの間の隙間。
路地UP
えっ、ここ入れるの?って激細路地の入口で看板がお出迎え。
看板
路地を進むと入口が見えてきた!

入口
ミロ【食べログ】 ★★★★ 4.0
所在地:東京都千代田区神田駿河台2-4-6

そして突如現れる、ナポリタンのサンプルが飾られたショーケース。
ナポサンプルショーケース
今でこそ表通りにランチの看板を出したりしているが、それでも知らなければここの看板なのかさえ判別が難しい、正に生ける迷宮物件!
サンプル
(表通りに出ているサンプル)

入るとそこは暗く、ランプシェードが鈍く浮かび上がる古城の様な空間…だったのだが、実は数年前に改装し、前より随分と明るくなった。
店内
それでも昨今のまっちろナチュラルなカフェなんぞから比べれば暗く、往時の空気を残しつつ今でも機能する様な秀逸なリニューアルといえよう。給仕も若めの女性ながらカフェかぶれした自称女子ではないのも高感度高し。

ランチは1100円で、13時を過ぎると1300円。
ランチメニュー
昔からこちらは高めの設定で、10年以上前に来た時も珈琲一杯700円で度肝抜かれた。
メニュー
(メニューはクリックで拡大)
まぁ新宿にあった名曲喫茶スカラ座もその位したが、あすこは蔦の絡まる古城の様な建築がそもそもイベント性が高いので、入場料くらいに思えた。しかしコチラは珈琲がトラジャとあっては泣くに泣けないものがあった。

トラジャはテレビCMで覚えている方もおられようが、キーコーヒーが力を入れていたインドネシアの豆で、これがまぁスッパイ。昔の喫茶店のコーヒー=スッパイの代名詞の様な味。
この店自体、往時の純喫茶の代名詞の様な店だから当然といえば当然か。でも10年程前はまだ昔気質の純喫茶も今よりはそこそこ残っていて、店先に出ている看板が鍵のマークだったりするとガッカリしたものだった。それが300円とかだったらまだ救われるが、二十歳ソコソコのバイト風情には痛すぎた。
トラジャ
今、こうして店の中に入って席についても、卓上にはトアルコトラジャイチオシのポップがコッチを向いている。これは、ここに来たら覚悟せよということなのか。いや、暑いからアイスコーヒーに逃げてもイイよね?

というわけで、スパゲティのセットにアイスコーヒーを先でお願いした。
アイスコーヒー
暫くしてやって来たそれは、大きなグラスにタップリ注がれていた。
色味も濃く、これはもしやと恐る恐る飲んでみると、天は我に味方したのか、濃いめで苦味も効いたシッカリした味の王道アイスコーヒーだった。もしかしたら豆はトラジャかもしれないが、深く炒ると酸っぱみは消えるのだろうか。
深炒りのコクが強いコーヒーの代名詞的に扱われることの多いマンデリンも同じインドネシアの豆なので、トラジャも深炒ったり物によっては似たようなニュアンスになるのかもしれない。

想定外のアイスコーヒーをチューチュー飲んでいると、厨房から炒める軽快な音が耳に響いて来た。
スパゲティセット
そして目の前に運ばれて来たのはミラネーズ。聞きなれないパスタだが、ミラノ風のといった意味らしく、いわばナポリタン的な日本風のネーミングらしい。一般的にクリームソースのパスタをさすらしいが、地方によってはカツなどが乗る、トルコライスパスタ版とでも言うべき料理を言うようだ。
ミラネーズ
これはそのどちらでもなく、まぁクリームソース的なものもなくはないが、味付けは無きに等しい素スパゲッティといった風体。
野菜果物たっぷり
付け合わせのポテトサラダも粘りある系ながらシッカリ手の入ったもので、サラダも多めでリンゴがウサギに切られていたりしてホッとさせられる。
パスタUP
ニンニクも唐辛子も効いてないのでペペロンチーノとも違うが、適度な塩気と細かく刻まれたベーコンや玉ねぎと相まって、シンプルに硬めでやや焦げめのついたパスタを食わせてくれる。

非常に最小単位のミニマルな味が妙にハマってしまった。また客に合わせて量や味付けを調整しているのか、スパゲッティの注文が入るごとに客層を聞いているのが好感が持てた。
創業は昭和30年だそうで、様々の時代の顔をこの隙間からそっと覗いて来た生き証人。まだ当分はここにいてくれそうだ。御茶ノ水の文化遺産として、ここに在り続けてほしい。
そして、酸っぱコーヒー好きは是非トラジャをトライしていただきたい。
ともあれ、昭和のユルい喫茶時間が流れる店でユックリできて満足! 美味しゅうございました。ごちそうさまです。

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コミケ受かりました!けど・・・
5/4(祝月)南3 メ-17a ガキ帝国@東京ビッグサイト【コミケットWEB】C98カラーweb
詳細は→【サークルブログ】まで。
…当落発表時は、とりあえず開催する方向で動いているという話でしたが、ここに来て、延期か中止かも!?という色合いが強くなってるみたいです。そもそもビッグサイトが貸してくれるのかという問題がありそうですが、状況を見て判断がくだされるそうなので、待つしかないですね。
新刊は宣告通り、コーヒー本の2を出す予定です。コミケが開催されれば無論出すのですが、中止の場合はGWの資料性か、夏のなにかのイベントで出すかもしれませんし、冬新刊にするか未定です。
というわけで、近年稀に見る程に好評だったコーヒー本1で書ききれなかったネタと、コーヒーに絡んだ話に触れおきます。

ベックスコーヒーでは、この価格帯のコーヒーショップにしては珍しく、ブレンドに深煎りが選べると書いた。
で、実際どんなコーヒーが出てくるかまでは書くスペースがなかったのだが、飲んだのはだいぶ前のことで余りよく覚えていなかった。文脈上、味について触れる箇所ではなかったのでそのままにしていたが、どんなコーヒーだったか飲んでおこうと、今年に入って巣鴨店に行ってきた。

外観
ベックスコーヒーショップ 巣鴨店【食べログ】 ★保留
所在地:東京都豊島区巣鴨1-16-1
公式サイト:BECK'S COFFEE SHOP 巣鴨店

JRの巣鴨駅から南側に出て、小さい橋を渡ったスグのところにある店舗。ベックスというと駅構内にあるイメージが強いので、駅舎から独立しているととても珍しく映る。
店内は天井が高く明るい。席はゆったり目で、椅子のソファーも大きく、席が広めのベローチェに似たタイプ。
まずカウンターで注文し、少々時間が経って珈琲が出来上がると、それをもって開いてる席を探す。意外と奥に長く、思ったよりゆっくりできそうな作り。完全に区切られた喫煙スペースがあり、その手前でノーパソいじってるリーマンの隣に腰掛ける。

深煎りコーヒーS¥250+税。
深入りコーヒー
Sでも底がスボまってないマグカップに入ってて、180mlはありそう。
Mだけ太字で色も違うので、M頼めよという圧に屈しそうになるが、Sにして正解だった。
メニュー
スタバもそうだが、こういうところはMの量が半端なく多いのだ。ただ反面、サンマルクカフェはそもそも量が少ないのだけど、Mをデフォにしてて、ショッピングモールなど店舗によってはSを置いてないところもある。はなまるでかけがない店舗みたいな感じ。あんま好きな商売方法ではないが、しょうがないのかなとも思う。
ともあれ深煎り。出てきた瞬間、やっちまったな!とクールポコよろしく思ってしまったが、出たよ、粉粉マッシーンの泡泡珈琲。
上から
サンマルクもそうなんだけど、この価格帯のチェーンでコレやられるとイタイ。どうしてもエスプレッソのマシーンとは別に出してるドトールやベローチェ、マックもそうだけど、そういうのと比べてしまう。
コンビニ珈琲でもそうで、セブンのは違うけど、ローソンやファミマとかだと泡泡なんだよな。一度地雷を踏むと、コンビニコーヒー飲む時はセブンを探してしまう。
記憶が曖昧どころか全く覚えてないレベルだったが頼んだものは仕方ない。飲んでみると、これが粉粉マッシーンにしては、渋さや苦みより、酸味系の爽やかな果実香のような香味を感じる。深煎りでなかなかこの手の味を感じられることはレアだし、ましてや粉粉マッシーンで感じられるとは驚きだ。
レインフォレスト・アライアンスの認証を受けた(熱帯雨林の環境保全に取り組んでる農園の)コーヒー豆を使っているところは、スペシャルティ(最高品質豆)率が高いので、こうした味になる確率も高いが、深煎り珈琲はレインフォレスト・アライアンス認証じゃない豆なのに、こういう味がするというのが不思議だ(認証受けてないだけで同レベルの豆を入れてるということだろうか)。

でもやっぱ、食感が粉っぽいのは頂けない。せっかくの味をザラつきが邪魔をしている。
つかこれ、深煎り?
普通のブレンドと飲み比べる必要があるだろうが、深煎りと聞いてイメージされる濃さや甘みは感じない。通常のブレンドと比較して深めということかもしれないが、そうとは知らず深煎りを求めて注文する人はこれじゃ納得しないよなぁ。
ということは、もう1度行って、通常のブレンドを頼まないといけないわけだが、分かってて泡泡珈琲飲むのは嫌ぜよ。


気づいたら長々書いてしまったが、珈琲ついでに触れておきたいことがもう1つあったのだ。
正月明けてスグ辺りか、たまたまスーパーのアイス売場を通りかかった時のこと。
普段アイスなど食べないのだが、その時ふとあるカップアイスに目が止まった。その名はレディーボーデン!

レディーボーデン【公式サイト】 ★★★★★★★★★★ ウマすぎ!

レディーボーデンといえば、子供時分の超贅沢ブランド。今見るとそんな大きくないが、子供にとってはバケツくらいの大きさに映ったわけで、それを♪れでぃ〜ぼぉ〜でん♪と歌いながら、スプーンで直で掬って食べるのが夢だった。

結局、一人暮らししてもその夢を叶えることはなかったのだが(その頃にはレディーボーデンはあまり見かけなくなっていた。もう1つの贅沢アイス、ビエネッタ【公式サイト|ミドルエッジ】の一人食いはしたかもしれない)、今でもレディーボーデンはハーゲンダッツより高級で贅沢なアイスとして脳内に刻み込まれている。

▲ビエネッタのCMもヤラレタ!

この数年、レディーボーデンがスーパーなどで見かけるようになったのは知っていたが、アレがないので手を出さないでいた。アレとは、そう、コーヒー味。
昔はコーヒー味のアイスというのが結構あり、宝石箱など大人っぽく高級っぽく見える商品は大人への憧れとして、子供向けの菓子などでよく採用されるデザインだった。
コーヒー=苦いという大人味が子供の背伸びしたい欲望を満たすのか、コーヒーカップを象った容器に入ったコーヒーアイス(雪印ブレンドコーヒーというらしい【参照サイト】。この辺はアイスマン福留さんの本に載っている)。
日本アイスクロニクル (タツミムック)
アイスマン福留
辰巳出版
2019-08-05

これが子供の頃兄弟揃って大好きで、ライオネスコーヒーキャンディーとともに、買ってもらえる菓子の最上級品だった。
コーヒーカップのアイスとレディーボーデンのコーヒー味は味が似ていて、ほろ苦さとミルクのコク・甘みが絡み合った味わいは今でも忘れられない。
40年近い年月を経て、それが目の前に現れたら、どう思うだろうか?
買うっきゃ騎士(ないと)でしょ!!

上から
ハーゲンダッツみたいなミニカップで、まさしく、あの頃のバケツをそのまま小さくした感じ。わかってるじゃん!
レディーボーデン
蓋を開けると・・・あぁ、この色!
アイス中身
で、さっそくいただくと、乳の粘りがあったあと、若干のシャリが来て、舌の上で溶けていくと、さらなる粘りが来て、甘みとコクと香ばしさが感じられてくる。あぁ、これよ、これ。はっきりと味を覚えている。ベックスとは大違いだ。自分の記憶力が気持ち悪くさえ思えてくる。
データ
カップに書かれたデータを見ると、昔はラクトアイスと書かれていた気がするが、中身や配合が違うのか、表記の基準が変わったのか。ともあれ乳脂肪分が13%と結構あるのに、100円ちょっとというのは嬉しい。
ちなみにハーゲンダッツは15%。ハーゲンダッツ高いのは動物性の乳脂肪分が多いからで、スーパーで生クリームを買うと、乳脂肪分が高いほど値段も高くなるのと一緒。でもレディーボーデンは13%なのにこの値段とは、さすが!
ダイエットとかいう人がハーゲンダッツを買うのを見るとどうかと思う。日頃の食事制限する前にハーゲンダッツ辞めたほうが効率いいと思うよ。味わいがリッチとか濃厚っていうのは、脂が多いからだから。ペヤングが背脂MAXって言ってるのとあんま変わんない。

話が逸れたが、また最近になって、このレディーボーデンのコーヒー味というか、ミニカップ自体を見かけなくなった気がする(公式サイトを見ると【ラインナップ】レギュラー販売されてるみたい)。なんにしてもどこぞのブランドイメージに騙されず、こういうもんをもっと置いてほしいと思うのだけどなぁ。

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仏蘭西ブレンド★冬コミC97 3日目12/30(月) 多謝! 新刊の直通販も受付終了しましたm(_ _)m
オフセット新刊のコーヒー本のみ、直通販を引き続き受け付けています【直通販サイト】
委託先への納品【委託先在庫一覧】も順次行っています。
というわけで、本ブログではたま〜にしかやらない珈琲ネタを、新刊発行記念にやっておきますか。

このブログ自体が、谷根千という街の中でお一人様珈琲店「結構人ミルクホール」を営むと同時にスタートし、店の人がどういう考えで何を嗜好しているのか、興味を持ってもらうために始めたブログだった。
というのは表向きの理由で、内情は営業中ヒマだったから、時間を有効活用せねば、やるなら少しでもブログで興味を持ってくれた人と店とを繋げられるようなものにしたかった。
しかしブログを続けていくと、仕事が終わってから外食した時の記録しか手元になく、深夜に開いてる店となると、ラーメンとか中華とか、脂っこい所謂B級グルメばかりとなり、店とはチットもリンクしないブログになっていった。
店を始めるまでは、脂っこいもん以外にも蕎麦とかスイーツとか色々巡っていたので、なんでもゴチャまぜに闇鍋状態の食レポを強引に1つのブログにまとめれば大団円!ということで「デウスエクスマキな食卓」と名付けたのに、町中華とか食堂、徐々に路地裏酒場方面に偏り、ちっともデウス・エクス・マキナじゃなくなってしまった。
それでも興味持って店に来てくれる読者はいて、フツーのことをやってる店じゃないのは感じてもらえたと思う。店ではどういうことをやっていたのか、どうして珈琲に特化したのか、それを店という器で体現していたつもりではあったが、やはり人は喫茶店やカフェというイメージを押し当ててくるので、なかなか店頭に貼り紙を掲示したりしたところで、なかなか伝わらない。言葉にできるスペースも限られるし、言葉を尽くせば尽くすほど、想いとは裏腹にお客さんには伝わらなくなっていくものだ。
それは分かっていたので、営業していた時はどう言葉にして、何をもって伝えるのか、13年間ずっと模索した。結局、自分には経営センスの他に、伝えたり表現するというプレゼンテーション能力が絶望的に足りないことを思い知らされただけだった。
だったら、もう実店舗は閉じたし、思い切って自主制作のミニコミ同人誌で伝えたかったことを書きまくろうと、上梓したのが今回の新刊ってわけ。

あら、いつもの悪い癖で、ちょっと前フリを書こうと思ったら長文になってしまった。
ともかく、店をやってる時は、珈琲店って似たような営業時間帯なので他の店に行けず、また行けてもブログに書いてしまうと、曲がりなりにも珈琲に携わる人間が他所の店のことについて意見することになってしまうので、なにかと面倒な気がして、原則珈琲については触れないでいた。
こういうタイミングで、珈琲店のことをこのブログで書いていいかなと思えるようになって、さらに今回珈琲本を書くにあたって、店をやっていた時に行けなかった珈琲店に行くことが出来た。
まだまだ以前好きだった店全てに行けてないのだけど、この数ヶ月で行った中でも印象的だったのが、神保町にある伯剌西爾だ(おおっ、やっと本題に入れるぜ〜)。

外観
神田伯剌西爾【食べログ】 ★★★★★ 5.0 
所在地:東京都千代田区神田神保町1-7 小宮山ビル B1F

場所は書泉グランデの真隣。珈琲本はこの書泉でも扱いがあるので、真隣だから店の人に読まれちゃうんじゃないかとか余計な心配してしまうが、裏にはミロンガやラドリオといった名店があり、さらには古瀬戸も近く、まさに珈琲店密集地帯。

中でも伯剌西爾に思い入れがあるのは、地下という入りづらそうなロケーションの割に、席が多く禁煙席もあり(先日まで一度も禁煙席が空いてたことがなかったんだけど)、あんまり面倒くさそうなマスター一人でやってる感じもなく(オマエが言うなって^^; ちなみに現在は若いスタッフが多い)、気軽に入れて、落ち着いた照明の下、ゆっくり珈琲が飲めるからだ。
入口
喫茶店で1人でなにするの?という意見を耳にする。本を読んだり作業をする人もいるが、いうなれば何もしない時間、一人になれる時間を買いに行ってるというところが強いのではないか。一人だと手持ち無沙汰で時間が長く感じる人には余り用がない場所かもしれない。
一人で酒場で飲む時もそうだし、人間関係に疲れたり、忙しくて頭をリセットしたい時、家だと日常過ぎてなかなかスイッチが切り替えることが出来ない時に、ふらっと立ち寄って一人になれる場所として人々に求められている気がする。最近だとサウナがそうかな。自分と向き合って、無になって、なにも考えない時間。
だから、珈琲屋に必要なのは味でなく、空間だという意見もごもっとも。実際、味が好みでなくても喫茶店というだけで落ち着く店も多いし(昭和の純喫茶に多いか)、ナポリタンとかホットサンドとかの喫茶メシがいいから、それをノンビリ食える場所として貴重だったりする。
ただ、こうでなきゃいけないというルールはなく、珈琲一杯を異常なまでに集中して淹れて、スマホも会話も長時間滞在も禁止の、上野近くの某店のような店もあったっていい。ただいつも思うのは、せっかくいい空間でそれなりにお金払ってるんだったら、珈琲が美味しいと思えたらもっとイイに決まってる。自分はそれをやってきたつもりだし、そう思える店の一つが伯剌西爾だった。

約20年ぶりに来ても、相変わらず狭い小部屋の禁煙席は一杯で(さっきも書いたけど後日再訪したら入れた!)、広い喫煙席奥の端っこのテーブル席に座る。
店内
空間全体が暗めで、茶系の色合いで統一されているというのもあるが、水平でなく、ちょっと波打った木のテーブルとか店の全ての感じに派手さがなく、均整が取れてない、ちょっとフワフワしたところも、落ち着くのに非日常感がある。
メニュー
メニューはプリントされたものになっていた。これは時代か。前は手書きだったか、もっと質素な感じのメニューだった記憶が。
前からそうだったか覚えてないが、苦味と酸味が珈琲豆アイコンの色の濃淡で示されてるのが有り難い。確か昔もコレを飲んだよなと、マンデリン550円を注文。値段もほとんど変わってないな。

すると、5分ほどで出てきた。
マンデリン
ハンドドリップしたにしては早いので少々不安だったが、飲んでみると昔の記憶が蘇ってきた。
昔より自分の口が深煎に慣れたせいで、トロみこそ感じなかったが、珈琲専門店でないと飲めないレベルの濃さ。じんわりと徐々に甘みが口中に広がる。こういう珈琲は一気に飲むもんじゃない、というか飲めない。チビチビ時間を掛けて、経時変化を楽しむ。
珈琲には銭湯と同様にアツアツ教の人がいる。なんでも熱くないといけなく、なぜかそういう趣味嗜好を店の人に怒鳴るように押し付ける。苦情をいうんじゃなくて、熱い店を探して行けばいいのにと思うが、常連タイプにこの手が多く(実は常連のフリしてロクに来やしない人のほうが多い)、沸かし直して尋常じゃないくらい熱くしている古いタイプの喫茶店は少なくない(フツーの人が飲めないレベルなので、だから喫茶店って衰退したんじゃないかと思うほど)。
ここを筆頭に、沸かし直ししてない店に出会えると嬉しい。どうしても沸かし直すと風味が飛ぶし、飲み頃になった頃には飲み終わりになっているから。もうアイスコーヒーかってくらい冷えた頃が本当は一番珈琲の旨みが感じられるので、1時間は最低でも居たいのだが、予定の都合で泣く泣く30分チョイで飲み切るペースで飲んだ。

途中で口寂しくなったので、パウンドケーキ1つ150円を追加。
パウンドケーキ
ほんのちょっと口にしたい時にはピッタリだが、150円とは思えないほどの大きさ。アーモンドの香りが心地良いが、珈琲を邪魔しない絶妙な塩梅。適度にしっとり。まぁ本当をいえば、珈琲だけ味わうなら付けちゃいけないけど、こういうのもいいもんです。

仏蘭西ブレンド
▲ちなみにコレは再訪した時に飲んだ仏蘭西ブレンド。メニューで一番苦いとあったので試したが、確かに深煎りとしての満足度はマンデリンより高いかも。個人的にはもっと濃くてもいいが(^_^;)

ゆっくり出来てこれで〆て700円(もちろん税込み)とは、信じられないコスパ。この立地でこれだけ人雇ってるなら、このパウンドケーキでもセットで税別千円は最低でもほしいところだろう。
こういう精神的な意味での贅沢を、この値段で買える幸福感。人それぞれ、こうした幸福感を得られる場所や物事は違くとも、一定数の人間にとって珈琲店は必要なもの。街に喫茶店はだいぶ少なくなったし、こういう珈琲店なんて数えるほどしかないかもしれないが、なくては困る存在だなと改めて思うのだった。
これからは折を見て、昔に行った店に加え、新たに未訪店も開拓していけたらと思う。1つでも多く、落ち着ける店を確保しておきたいからね。
というわけで、やっぱ珈琲屋はいいですわ。ウマシ! ごちそうさまでした〜

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パトめし!読者にはお馴染み(?)聖橋を作った建築家、山田守。晩年を過ごした住宅が今週末まで公開となっている。
【「建築家・山田守の住宅」展 − 没後50周年・自邸公開 −】
実はココ、青山で名の通った蔦珈琲が入ってる建物なのだ。というわけで、以前伺った時のレポが未UPだったので公開しておきたい。

行ったのが夜なので外観が分かりづらいが、青山通りから路地に入った先、周囲が真っ暗な中、ポツンと蔦と案内板がライトに浮かび上がっている。
蔦珈琲店外観
蔦珈琲店建物
蔦珈琲店【食べログ】
★★★★☆ 4.5
所在地:東京都港区南青山5-11-20
※昼間の様子はこのブログ【レトロな建物を訪ねて|蔦サロン】等を参照あれ。

蔦珈琲店入口入口はゲートからさらに入ったところ。
重い扉をグイッと開けると、薄ぼんやりとライトに照らされる焦げ茶色の満席の店内が広がる。
ここは元々ガレージのような場所で、2Fから上が住居兼事務所だったが、没後暫くして1F部分をカフェにしたという。
蔦珈琲店内観店内は年季の入った喫茶店という風情だが、椅子や壁などよくみるとそんなに古色蒼然とはしていないのは、開業して20年ほどとそんなに古くはないからのようだ。
蔦珈琲といえば何と言っても、大きく取られたガラス窓から見る庭の景色。本来は2F以上から見下ろす形で作られたらしいが、横から見ても見事。
店自体は縦に長い構造で、カウンターがビヤーっと奥に向かって伸び、向かい合うように厨房があって、マスターが珈琲を点てているが、その対面が2人席で、入口手前側がそのガラス席になっている。たまたま空いてたのが奥の2人席だったので、席からは庭が全く望めなかった。
その反面、店内が見渡せて、マスターの所作や常連とのやり取りが窺えて楽しかった。
蔦珈琲店メニュー
フロアは基本ニイチャン従業員の対応。壁にあるメニューからセットを選び、告げる。
平日の夕方だが兎に角混んでいて、後から来る客もだいぶ断られている。入れてラッキーだったが、出てくるまでの時間は覚悟していた。だが、今回もまた珈琲を先に持ってきてもらうのを言うの忘れてしまった。やらかしたー。30分位水以外飲むものなくて喉カラカラ。

そんな状態でやってきました、クロックムッシュ¥1300(セット価格)!
蔦珈琲店クロックムッシュ
スゲーデカい皿でボーン!とやってきた。
蔦珈琲店クロックムッシュ横から
写真ではサイズ感分かりづらいと思うが、一般的なサイズのイギリスパンそのまま輪切りにしたのでサンドしてあるクロックムッシュが皿の半分、もう半分は切ったオレンジの上にクレソンがこれでもかとテンコ盛り。しかも葉っぱで隠れているが、ヤクルトのオマケ付き。

クロックムッシュの方は、厚み自体はそれほどでもないが、ガリッとしっかり焼けてて、チーズの上にまぶされたガーリックパウダーが焦げていい香りを漂わせている。
蔦珈琲店クロックムッシュUP
中はハムとチーズと至ってオーソドックス。イマドキなカフェというよりは味にしろベタな喫茶店なんだろうな。

水しか飲んでない状態で、これを食べるのはシンドイなぁと思った矢先、ようやっと珈琲の登場。
蔦珈琲店コーヒー
メニューにコーヒーとだけ書かれた一番オーソドックスなものだろうが、これが適度に深炒りで濃いめに丁寧にシッカリ淹れてあって(ネルだったかな)、久々に喫茶店でちゃんとしたコーヒー飲めて嬉しくなった。まろやかで甘みも感じられる。
この辺だとどうしても無くなった大坊珈琲【過去記事】と比較してしまうが、アッチが超個性派で攻めてる珈琲としたら、コッチはオーソドックスな味を丁寧に出してるってところか。濃いけどクセなく飲める。

これを飲みながら、クロックムッシュをパクつくと、やっぱりいい塩梅になる。刺激があると思ったら、中には粗挽きのコショウがまぶされていた。適度なスパイシーさが余計に食欲をそそる。
蔦珈琲店クロックムッシュ中身
クレソン他の野菜は口直し的にツマんでいたつもりが、二郎じゃないけど、メインのサンドパンにこの量のヤサイとなると、これだけでちょっとした食事。でもシャキっとして瑞々しいので、美味しく頂けた。

ヤクルトは正直、これだけの後に飲むには余韻的に甘くてキツイので、持ち帰ることに。
マスターにまたいらっしゃいと気持ちよく見送られ、店を後にした。
カレーも人気のようで、この味だし、全面喫煙可とあって、この辺の人らがしけこむには持って来いの場所なんだろうな。それに庭とか吸引力のある要素あるから、自分もそうだが他所者もやってくるしで、そら混むわ。
大坊がなくなってショゲていたが、またチョット違った感じで、この辺らしいカルチャーの吹き溜まりがあって、ホッとした。
次は運良く入れるか分からないが、近くに来たらまたフラッと立ち寄りたい。
というわけで、美味しゅうございました。ごちそうさまです。

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このところブログ更新が停滞してて申し訳ない。久々のUPを記念(?)して、今回は変化球、しかも超長文と行きますか。
当ブログでは自分の職業柄、珈琲について詳しい味のことは述べないという方針なのだが、ちょっとここで書いておきたいことがあったのと、結構多くの方が言われている問題について思うところがあったので、あの青瓶ことブルーボトルに触れたい。

サードウエーブなる言葉とともに日本に上陸したアメリカのブルーボトルコーヒー。その1号店が清澄白河の路地裏というのも十分衝撃だったが、確か当時の文句は、倉庫街の1室からスタートした創業地と似てる、だったかな。
はて? 清澄白河ってアメリカの運河沿いの倉庫街みたいな風景だったっけか??
自分が何度か訪れている清澄白河は、嘗て自宅の1Fで家族経営の工場をやってたっぽい民家が商売畳んで倉庫にしてる、ってなところか。
そんなことを考えながらトボトボ歩いていたら、本当に民家の1Fが倉庫や駐車場になってる家の間にブルーボトルが出現した!
ブルーボトル外観
ブルーボトルコーヒー 清澄白河 ロースタリー&カフェ【食べログ】
★★★★☆ 4.5
所在地:東京都江東区平野1-4-8
【公式サイト】

う、うそだろ!?
正しく目を疑うとはこのことで、周囲は零細町工場があった住宅街。自分の川口の実家の周囲がまさにこんな感じで、実家に帰ってきたような思いさえしていたが、言うなれば、実家の目の前にブルーボトルが出来た感じだ。近隣住民さぞビックリしたことだろう。
そしてマジか!?と言わんばかりに、客は完全に地域住民とは高い壁を感じさせる人種ばかり。その何割かは外人。しかもPCは全部リンゴマーク。
まぁどっか少し離れたところに商業エリアでもあんのかもしれない、ということで自分を納得させて、白っぽい木と硝子で出来たクソ高いドアを入る。入口には店員がスタンバってて、カウンター奥で注文と会計して、後は好きなところで飲み食いしてくれと案内される。
ブルーボトル内観
一応テーブルは1Fとロフト状の2Fにあるが、立ち飲みしてる人も多く、店の構造自体が、あまり席に着いてノンビリという喫茶店スタイルではないことを初めからアピールしているかのよう。
ともあれ奥に行ってネーチャンに注文する。珈琲がメインなので、豆の種類を選ぶストレートとアイス、アレンジ珈琲もあるが、後はちょっとした焼き菓子程度。珈琲以外ではミネラルウォーターが300円と、どこぞみたいに水も有料(無料の水もあったかな)、時代を先取りか。
ただスタバに慣れた日本のマーケットを意識してなのか現地もそうなのか知らんが、アレンジものはマキアートとかラテとか多くて、他の客を見てるとやっぱそうしたアレンジ珈琲を飲んでるか、フツーにアイスコーヒーにミルクとガムシロ入れてたりしてる。
というのも、ここでサードウエーブについて簡単に触れておかにゃならんか。
自分が最初この言葉を耳したのはネットのニュース記事。関連サイトを辿ってみた感じでは、昭和の喫茶店みたいなんがあって、その後、ドトールとか安価な珈琲に取って代わって、スタバが出てきて後、今度は品質にこだわったサードウエーブ=第三の波が来る!みたいな文脈だった。
これを読んだ時、ちょっと待てと。日本で言えばコーヒー文化なんてそれこそ戦前からあって、銀ブラって言葉の語源となった銀座のパウリスタとかさ、永井荷風のもの読んでても出てくるわけで、日本に珈琲豆が流通する過程とか独自の喫茶文化が出来上がる背景を無視して、ここ数十年だけでサードウエーブなんていうのは余りに近視眼的過ぎると思った。
先日、渋谷のアップリンクで上映されてた『A FILM ABOUT COFFEE』【公式】って映画を観てきたんだけど、これはまさにサードウエーブの珈琲とは何ぞやというドキュメンタリーで、やはりサードウエーブの定義付けは上記とは異なるものだった。要約すると、珈琲っつーのは最初、単に珈琲だったらOK、カフェインだったらOKみたいな感じで、特にこだわりとかなくインスタントとかが主流だったのが、どういう風に焙煎されたかとか、どういう抽出方法がいいのかとか、珈琲という液体になる前の作業工程が注目されるようになって、そして今は、そもそもの珈琲豆がどうやって市場までやってきて、さらに遡ってどういうふうに栽培されてそこに違いがあるのか、っていう焼かれる前の生豆の状態にまで言及されるようになったと。それがサードウエーブなんだと。
なるほど、それなら納得。日本でも2000年頃からスペシャルティ珈琲という名前で、国だけでなく、どの産地のどういう栽培・精製方法で作られた豆なのかをはっきりさせて、そこに価値がつく珈琲豆が出てくるようになった。いうなれば、スペシャルティ珈琲の映画だったんだけど、それをなんというかね、サードウエーブという言い方がキャッチーというか、そこが上手かったんだろうね。
ちなみに、映画では当ブログでも触れた今は亡き大坊珈琲【過去記事】が映っているので、これを観るために映画館まで足を運んだわけだが、サードウエーブとか全く関係ない文脈で、ただ珈琲の文化の一つの形としてボコっと半ば強引に入れ込んだ感があった。もう見れない姿が拝めただけで価値はあったが、要は武士道的な珈琲道みたいな、大坊氏の所作に美学を感じるというか、ようは珈琲のジャパニーズ・サムライという扱いだったのね。向こうの人の好きそうな。
閑話休題。って長ぇな、いつものことながら。
ならばとシングルオリジン(要はブレンドじゃなくてストレート珈琲の豆を選ぶ)で注文。その日扱ってる豆はメニュー台下やコーヒーを抽出してるカウンター背面に掲示されている。のだが、あんま気に留めてる人がいない。つーか、メニュー見ても全面に推されてるわけではなく、他のメニューに埋没しているので、これじゃ折角のサードウエーブも普及に貢献できてないな。
でもこれはココだけの問題じゃなくて、アメリカでも店が大きくなるとM&Aの対象となるようで、国内は愚かこうして国外にも店舗展開するとなると、当初の企業理念は失われるものらしい。昨今は特に小規模の店舗でも買収のターゲットになるという(ウチの仕入先に最近そんな話題が上がってたので参照【M&A-4グリーンマウンテンコーヒーとサードウエブの終焉?】)。サードウエーブも本当の珈琲の姿を提示するという役割でなくなりつつあるってことかな。
ともあれ、カウンター上部にたくさん並ぶドデカいドリッパーで珈琲は抽出され、出来上がると番号で呼ばれる。
ブルーボトル2F
とりあえず空いてた2Fの席に着いて待っていても、2Fまで声が全く届かないので、仕方なく頃合いを見てカウンター前で待つことに。

で、やっと出てきたよ、ドリップシングルオリジン(コロンビア)¥550!
ブルーボトルドリップシングルオリジン
ガラスの大きなカップに入って、かなり量はありそう。
豆はコロンビアのポパヤン・ウインターハーベスト【ブルーボトルFacebookページ】というもののようだ。説明によると、クリーミーな口当たりでミルクチョコレートのような風味とキャラメルやりんごを思わせる優しい甘み、らしい。飲んでみると、薄いというか、かなりさっぱりしていて、爽やかな飲み口。それでいて、奥にコクも感じて、味がすっぽぬけてないというか、さっぱりしてる割に飲みごたえはある。
ブルーボトルアイスシングルオリジンよくブルーボトル、ひいてはサードウエーブ全般に言われることとして、酸っぱいというのがある。同行者もシングルオリジンのアイスコーヒー¥500を飲んだが、酸っぱいといっていた。
サードウエーブ珈琲の特徴として、珈琲豆が浅炒りというのがある。コーヒーをあんま炒らない、誤解を恐れずにいえば、あんまり焦がさない。珈琲が苦いのはシッカリ炒るから、ザックリいうと焦げてるから。だからサードウエーブのは苦くない。その分、酸味が出る。この酸味が珈琲豆固有の特徴と考えられていて、スペシャルティ珈琲でも産地ごとの珈琲豆を採点するカッピングという作業では、浅炒りの豆を用いることが殆ど。
でも、折角500円とか払って、単に酸っぱいとしか感じられなかったら、その人は珈琲を好きになるだろうか。産地ごとの個性が感じられて、珈琲ってこんな今まで飲んだことのない味がして、新しい美味しさを発見した、なんて思ってくれるだろうか。サードウエーブ側としてはそう思って欲しくて浅炒りにしているのだろうが、現実、多くの人がただ酸っぱい珈琲としか思ってないのなら、非常に残念な結果と言わざるをえない。
とここで、なんで珈琲は酸っぱいかについてまとめておきやすか。
珈琲と酸っぱさの関係は、怨恨と言ってもいいかな、非常に根深い。昔の喫茶店のコーヒーは大抵酸っぱくて、ウチでも酸っぱくないコーヒー下さいというお客さんが実に多い。これは、昔は大手企業から焙煎された豆を大量に買って店で長期間常温で放置していたから酸化して酸っぱくなっているだけで、コーヒー本来の味ではなかった(この酸化した酸っぱみを誤魔化すためにミルクや砂糖を入れるようになったとも言われる)。昔は苦味に耐性がない人が多く、殆どのコーヒーが浅炒りだったが、食糧事情が良くなって皆んなが色んな物を食べるようになってから、味を楽しむ幅が広くなって、徐々に深い炒りも好まれるようになった。
このブログではよくラーメンの、特に豚骨の話をするのでソレに例えると分かりやすいだろうが、スープのコクは脂が水と煮立つことで混ざって(乳化して)生まれるように、珈琲も植物(種子)だから、強く火を入れる(深炒りにする)ことで油が出て、熱い湯を落として混ざる(抽出する)ことで、コクのある珈琲になる。つまりコクが強い=旨みが出てることだから、中毒性があって、珈琲にハマる人は深炒り好きが多くなった。
でもこれだと、深炒りにすればどんな産地の豆でも関係ないじゃないか、という話になる。ここが難しいところで、焦がすと苦いだけで旨みが感じられなくて、何処まで火を入れられるかっていうラインが豆の持つポテンシャルによって結構違うのだ。ここは焙煎技術の世界になってくるので難しいのだが、この産地のこの標高のこの品種の豆は水分量が多いとか、ちょっとでも深く炒るとスグ焦げやすいとか、昨年はよかったけど今年はイマイチとか、輸入した時のコンディション含め、豆の事良く知ってて初めてこの豆だったらどう炒ろうかって判断ができるようになる。
だから、浅炒りで表現できる味だけが珈琲の味じゃなくて、火の入り加減で味が変わってくるから、確かにサードウエーブは珈琲が本来持ってる酸味を楽しむ意味では新たな楽しみ方を提示できたのかもしれないが、実際多くの人がただ酸っぱい珈琲としか感じないなら、昔の喫茶店の、管理の悪い参加した酸っぱい珈琲と変わらないと思う人も沢山いると思う。それでは、元の木阿弥ではないだろうか。
スタバ出てきて、アレンジ珈琲のようにクリームとか色々加えてるとはいえ深炒りに馴染む人が増え、ストレートでも砂糖ミルク無しで深炒りコーヒーを飲む人も男女とも増えた。じゃなければ、ダークローストのコンビニコーヒーがこんなに普及するはずない(昔じゃありえないよ、あの深炒りは)。その一方で、苦いだけのコーヒーが増え、元々焦げただけの味と一蹴してた人や、どこも深炒りで飽き飽きしていた向きもあって、そうした人たちがサードウエーブの酸っぱい珈琲に流れたというのもあると思う。確かに、豆のポテンシャルを十分引き出した浅炒りを出す店はあるようで、そういうところで、苦いだけじゃない珈琲の世界に触れたという人の話も聞く。
じゃあブルーボトルはどうだったのさ?と言われたら、自分は、ただ酸っぱいだけの珈琲じゃないとは思った。珈琲本来のもつ、浅炒りでないと表現できない酸味が感じられて、美味しかった。
ただ、これって、多くの人がそう思うようじゃないとダメなのかなぁというのが率直な感想。そこまでのインパクトあるものを常時出し続けるのってこれだけの人数のお客さん捌く商売としては不可能に近い。個人店でやったってブレるのに。事実、深炒り好きでもちゃんと豆の味が引き出されて酸っぱいだけじゃない珈琲なら好きな同行者が、やっぱり酸っぱいを眉間に皺を寄せてるわけから。
店の説明で、クリーミーな口当たり・ミルクチョコレートのような風味・キャラメルのような甘み、って3つの要素上げてたけど、これって、深く炒ることで表現される珈琲の味わいなんですわ。これを表現したいなら、絶対もっと深く炒れば、よりクリーミー(乳化してるってこと)でチョコやキャラメルのような甘み出るよ。チョコだって、カカオ豆なわけだから、カカオを強く炒れば香ばしくて苦い、よりチョコっぽい味になるわけだから。
多くの人が酸っぱいと思うものに、甘さやクリーミーさ感じるわけ無いじゃん。火が入ってるから、豆によっては多少は感じられるっていうならわかるけど。浅炒りで表現できるのは唯一、りんごを思わせる、ってところだけ。これは果実という農作物の持つ酸味が成せる技だから。あんま火を入れて化学反応させてないわけだから、草っぽいというか青々とした、果実よりの味になって当然。こういうところでも、勿体ないなぁと思ってしまう。

あぁ、コーヒーのことでエラく長くなってしまった。
パウンドケーキ¥450
ブルーボトルパンプキンパウンドケーキ
味はパンプキンで、しっとりしててミッチリ濃厚。蒸しケーキのような鼻にスンと抜ける香りはあるものの、500円程のお茶うけとしてはジャンクっぽくないし、十分イイ感じ。

珈琲一杯500円以上で、立ち飲みになるかもしれないこともあって、高いという人もいるらしいが、自分は安いと思った。
味をウマイまずいと感じるかは個人の問題だが、とにかくシングルオリジンの一定上の品質の珈琲豆を人が手でドリップしたものを500円程で飲めると考えれば、そこに席料は入らないんじゃないかな。これだけ量捌いてるから寧ろ可能な価格で、このレベルのコーヒーを一杯だてで提供したら600円以上、更に席でゆっくり飲めるとしたら7〜800円以上すると考えるのが妥当だ。これより安い値段でやってる店があったとしたら、珈琲だけで商売してないか、相当身を削ってると考えられる。
そういう意味でも、ちゃんとしたもんをちゃんと出せばそれなりの値段になって、飲む側がそれだけの金額払うだけの価値があると思ってくれるようになればベスト。できれば、酸っぱいだけじゃない浅炒りの魅力が分かりやすく伝わるような豆を厳選するとか方策を練って、珈琲の魅力をもっと多くの人に伝わるような方向で進んでいってほしいなぁと。まぁもっと焙煎の幅をとって、炒りの強さで味がこうも変わるのかとか提示できれば、日本に既にあるスペシャルティ珈琲に目が向けられるキッカケになるんじゃないか。でもそれには現状ではまだまだ壁があると実感した、というのが今回の感想。
以上、長文お付き合い頂きありがとう。

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